公益社団法人発明協会

本事業について

「戦後日本のイノベーション100選」について

 発明協会は平成26年(2014年)創立110周年を迎えたことから、これを記念し、戦後日本で成長を遂げ、我が国産業経済の発展に大きく寄与したイノベーションを選定する事業を進めて参りました。 選定にあたっては、一般並びに有識者へのアンケートの結果等を参考に選定小委員会及び選定委員会において所要の審議を行い、平成26年6月に第1回の選定として、アンケート投票トップ10を含む38イノベーションを既に発表したところであります。

 その後も引き続き検討を重ね、この度、作業が完了しましたので、本事業において選定された全てのイノベーション(105件)をここに発表いたします。

平成28年6月15日

イノベーションの定義

 本事業におけるイノベーションの定義は以下のとおりです。
 「経済的な活動であって、その新たな創造によって、歴史的社会的に大きな変革をもたらし、その展開が国際的、或いはその可能性を有する事業。その対象は発明に限らず、ビジネスモデルやプロジェクトを含み、またその発明が外来のものであっても、日本で大きく発展したものも含む。」

選評


「戦後日本のイノベーション100選」
選定委員会委員長
一橋大学名誉教授 野中 郁次郎
 公益社団法人発明協会は一昨年創立110周年を迎えた。その記念事業である「戦後日本のイノベーション100選」は、戦後日本の優れたイノベーションを100件選ぶことによって、戦後から現在までの日本の経済や技術の発展の歩みを振り返るとともに、将来のイノベーション顕彰に向けた基礎的な知見を蓄積することを目的としている。

 奇しくも、明治維新(1868年)から太平洋戦争開始(1941年)までが73年間、そしてその太平洋戦争開始から2014年までが同じく73年間というタイミングであった。こうした歴史の節目に当たって、戦後日本のイノベーションを総括する試みも意義があるものと思う。

 戦後の日本は、都市部や工業地帯が焦土と化した荒廃から立ち直り、近年まで世界第二位の経済規模、そして長寿世界一の社会的水準を達成してきた。しかし、現在は世界最速の高齢化社会という大きな試練に立たされている。このような人口動態の変化に対応し、持続的な発展を推進するには、イノベーションなしでは困難であろう。過去のイノベーションを振り返ることが将来のイノベーションへの架け橋になることを期待して、「戦後日本のイノベーション100選」の選定委員長をお引き受けした次第である。

 イノベーションの定義については「経済的な活動であって、その新たな創造によって、歴史的社会的に大きな変革をもたらし、その展開が国際的、或いはその可能性を有する事業。その対象は発明に限らず、ビジネスモデルやプロジェクトを含み、またその発明が外来のものであっても、日本で大きく発展したものも含む」としたが、これはイノベーションの特徴として、創造性、歴史的重要性そして国際性を重視したものである。

 また、選定にあたっては、まず一般及び大学のイノベーション研究者など有識者へのアンケートを行い、得票数の多かった案件はその結果を尊重し、得票数10位までのものについてはトップ10として公表することとした。例外は、トップ3に入る得票数を得たiPS細胞である。これは、現時点では未だ開発段階であるため、今回の選定から外した。これが実用化されれば21世紀の大きな発見発明であり、画期的なイノベーションとなることが期待される。

 一方で、アンケートの得票数からは、100位までを明確に序列づけるほどの結果は得られなかった。全体的に見ればいわゆるロングテイル型の得票分布になったのである。したがって、事務局から更に多くの識者の方々のご意見を聴取して、次のような観点から選定作業を進めた。

 第一は、アンケートについては、得票数の比較的多いものについてはこれを尊重した。

 第二に、著名な賞や国際見本市などで高い評価を受けたものをリストアップし候補案件とした。

 第三に、主要産業部門から代表的とみられるイノベーションをリストアップした。そのため有識者の専門的な意見を重視するとともに業界団体から意見を集め、候補案件を検討した。

 第四に、従業員1000人以下の企業を中堅中小企業と位置づけ、アンケート結果及び有識者の意見から対象となる案件をピックアップし、これを候補案件として検討することとした。これらの候補となった企業は現在ほぼ全てが大企業となっているが、候補案件を実現した当時はベンチャー精神にあふれる創業者が多く見いだされることに敬意を払いたいと思ったからである。

 第五に、一企業や個人のイノベーションではないが、その時代の国民的課題に国家的規模で果敢に取り組み成功したものも対象とすることとした。その代表的なものがアンケートでもかなりの得票を得た公害対策や省エネ対策などである。これは一般的感覚としてイノベーションの範疇に入らないとのご意見もあろうかと思う。しかし、現代日本では、新たに国家をあげて取り組むべき課題が山積していることを考えると、過去においてどう対処してきたのかに配慮しようということとなった。

 さらに、戦後のイノベーションを時系列で追うことは有意義な見方を提供することと考え、戦後の時代を4つに区分し、古い順に選定を進めることとした。時代区分は戦後復興期(1945年から1954年まで)、高度経済成長期(1955年から1974年まで)、安定成長期(1975年から1990年まで)、そして現代(1991年から2000年)としている。

 第一回の選定事例として2014年に38件を公表したが、それはアンケートトップ10を除けば高度成長期までのものである。その後、上記の観点からさらに作業を進め概略200強に及ぶ候補事例につき主として小委員会での審議を重ねてきた。この過程では事務局がリストアップした候補案件について弁理士会及び特許庁技術懇話会のご協力を得て第2回目のアンケートを行い最終決定に向けた貴重な資料を収集することができた。ここに両組織に対し深甚なる謝意を表する次第である。なお、21世紀以降に商品化されたものは、潜在的な発展可能性に比して現段階では市場規模等において小さなものが多く存在し、これらは後世の評価に委ねるのが適当と判断して本事業の対象からは外すこととした。その結果、選定されたものはいずれも20世紀内に市場に出現したものである。また、最終選定事例数は105となった。100選とうたいながら105となったのは、いずれも甲乙つけがたく、日本のイノベーションの歴史から外すことができなかったことによる。

 こうして選ばれた事例をみると、戦後復興期及び高度成長期の日本経済発展の土台を形成してきた日本的なイノベーションが実現された過程が如実に示されている思いがする。しかも選ばれたものの多くが今なお進化の過程にある。その意味で優れたイノベーションは、時代を切り開くパイオニアであることをも示していると思う。安定成長期から現代にかけての事例からは、日本のイノベーションが世界のそれを次第に牽引していった姿が読み取れる。日本におけるイノベーションは、戦後しばらくの間は欧米などの技術の応用、改善から生まれたものが多かったが、時代を経て、オリジナリティの強い発明やビジネスモデルが生まれてきていると言えるだろう。

 全体を通じて言えることは、日本の優れたイノベーションは多様であり、また独自の性格も示している。「ウォークマンR」に代表される小型化能力や「新幹線」に代表される組織力、「トヨタ生産方式」に代表されるような現場力さらには「省エネ化 」に代表されるような国民的団結力等々である。これらの能力は綿々と現代にも受け継がれてきた。

 そして、21世紀になってからも、前述の「iPS細胞」のように未来への大きな希望を抱かせる発見や「垂直磁気記録媒体」のように21世紀までに対象を広げれば確実に選定されたであろう発明も相次いでいる。

 「戦後日本のイノベーション100選」事業は、このようなイノベーションを鼓舞するのに有効な顕彰制度の在り方を探ることを目的として実施されてきた。100選事業を実施して感じるのは、大きなイノベーションの大半はそれなりに時間を経てかつ次第に多くの人々の参加のもとになされるものであり、その評価には相応の時間を要するということである。発明に関する顕彰制度は、既に発明協会の恩賜発明賞をはじめ権威あるものが多く存在する。また、本年2016年からは「日本サービス大賞」制度が発足することとなった。したがって、イノベーションを構成する「発明」と「サービス」分野での顕彰制度は整備されつつあると言ってよいだろう。それだけにアメリカ電子電気学会が認定している顕彰制度「マイルストーン」制度のように相応の年数を経て社会的、国際的に大きなインパクトを与えたものに「イノベーションの殿堂」入りを認める事業などが今後検討されるべきではないかと思う。

 イノベーションとはその商品、サービスが大きな共感をもたらすことである。その意味で「イノベーションの殿堂」入りは国民の共感を呼んできたイノベーションをしかるべき時間を置いて顕彰するものであり、いわば産業人、あるいは企業の国民栄誉賞ともなるべきものである。「戦後日本のイノベーション100選」は、さらに時機を見て見直し、日本発のさまざまな創意工夫を表彰する顕彰制度にかかわる候補案の一つとしてこれを活用される日が来ることを期待している。


     平成28年6月15日
「戦後日本のイノベーション100選」選定委員会委員長
一橋大学名誉教授   野中 郁次郎


戦後日本のイノベーション100選 選定結果について


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