公益社団法人発明協会

安定成長期

IHクッキングヒーター

発明技術開発の概要

(1)IHクッキングヒーターの概要

 IHクッキングヒーターは、パナソニックによって1978年に開発、商品化された卓上型IH調理器を更に技術的に発展させたものである。IHクッキングヒーターの登場によって、「火」ではなく「電気」による調理が一般家庭に急速に普及することとなった。

 先述したように、IHクッキングヒーターは、誘導加熱(Induction Heating)を利用した調理機器である。図1は、誘導加熱の基本原理を示している。まず、AC200Vの電源から流れる交流電流を、整流器とインバーターを通じて約20〜40kHzの高周波電流に変換し、セラミックのトッププレート直下に配置された加熱コイルに流す。加熱コイルに高周波電流を流すことによって、加熱コイル周りに磁力線(磁界)が発生する。この磁力線が鍋底の金属に触れると、鍋底に磁界を打ち消す方向に誘導電流(うず電流)が流れる。金属には電気抵抗があるため、このうず電流が流れることによってジュール熱と呼ばれる発熱が起こり、鍋が直接加熱される。これが誘導加熱の基本原理である。

このような方式による加熱は、従来のガスコンロによる加熱と比べて、以下のような長所を有している。

・加熱効率の高さと制御性

 誘導加熱では、調理鍋を直接発熱させるため、加熱効率(=加熱出力電力/入力電力)が高い。ガスコンロの加熱効率が約50%であるのに対して、誘導加熱の加熱効率は約90%である1。また、上述したように、高周波磁界の電流をインバーターによって自在にコントロールすることができるため、加熱電力の制御性も飛躍的に向上する。

・安全性の高さ

 炎や赤熱部がないため、着衣への着火や油への引火といった恐れがない。

・室内環境の改善

 ガスのように輻射熱2がないため、夏場であっても台所の温度上昇が少ない。また、燃焼ガスが発生しないため、換気の回数も少なくて済む。

・清掃性の良さ

 調理面がフラットであるため、清掃性が良い。

図1 IHクッキングヒーターの基本原理

図1 IHクッキングヒーターの基本原理

出典:木村(2007)102頁 Fig.8より引用

(2)IH クッキングヒーターの技術的課題

 このように、従来の調理方式に比べ、IHクッキングヒーターは様々な利便性を有していた。しかし、IHクッキングヒーターの開発に当たっては、初期の卓上型IH調理器と比べても更なる技術的課題が存在していた。ここでは、特に重要であったと思われる二つの課題について述べる。

①火力

 初期の卓上型IH調理器では、100V電源で火力が1.4kW程度しかなく、家庭で使用する本格的な調理器としては不適格であった。したがって、一般家庭用の本格的な調理への使用を想定されたIHクッキングヒーターでは、初期の卓上型IH調理器よりも更に強い火力が必要とされた。そのため、200Vの電源が使用されることとなった。しかし、従来のインバーターでは200Vの電圧には耐え切れず、ショートしてしまうという問題が生じた。このような問題に対してパナソニックでは、インバーター回路構成に改良を重ねることで解決が図られた3

②鍋干渉音

 もう一つの課題は、鍋干渉音であった。IHクッキングヒーターでは通常コンロが二つ以上並べられるが、これらを同時に使用することで鍋干渉音が発生するという問題である。これは、各コンロの火力が変わることによって、電流を変換するインバーターの周波数がずれるために生じるものであった。そこで、一定周波数・電力可変(VPCF)制御方式のインバーターが開発された。このインバーターによって、隣り合うコンロの加熱周波数が一致するように制御され、周波数の違いによって生じる雑音をなくすことに成功した。

(3)オールメタル加熱型IHクッキングヒーターへの発展

 これらの課題を克服して、1990年にIHクッキングヒーターは市場に投入された。しかし、IHクッキングヒーターにはまだ致命的な欠点が存在していた。IHクッキングヒーターによって加熱可能であったのは、鉄あるいは磁性ステンレス製の金属鍋に限られていたのである。

 電磁誘導を利用した加熱は、金属の電気抵抗や比透磁率4の大きさに左右される。そのため、電気抵抗や比透磁率の小さいアルミニウムや銅といった非磁性体金属の加熱においては十分なジュール熱が得られず、加熱処理をすることができない。このような課題に対応して2002年に開発されたのが、オールメタル加熱型IHクッキングヒーターである。

 オールメタル加熱型IHクッキングヒーターでは、鉄鍋加熱時には動作周波数が20kHz程度であるが、アルミニウムや銅鍋加熱時には60〜90kHzになる。このように、鍋の材質を判別して異なる動作周波数を切り替えることができるため、一つの加熱コイルで鉄鍋加熱とアルミニウム鍋あるいは銅鍋加熱を両立させることができる。オールメタル加熱型IHクッキングヒーターの登場によって、金属鍋の材質にかかわらず誘導加熱ができるようになり、「電気」による調理はより一層一般家庭に普及するようになった。


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